法話629

判断を迷わせる愚痴

坂井町御油田・演仙寺住職 多田文樹

幸福を妨げるもの⑤

きょうは、根本煩悩のうち、三番目の痴、すなわち愚痴について考えてみましょう。
済んだことをいつまでも悔やんで、くよくよしている人のことを、「あの人は愚痴な人だ」と申しますが、愚痴というのは済んだことばかりでなく、これから先のことでも、どっちにしようか判断に迷うばかりで、少しも前へ進まない状態をも、愚痴というのであります。
考えてみれば、ものごとを判断するのは、容易なことではありません。白か黒かはっきりしている場合ならともかく、どちらにも一長一短があり、しかも、やり直しがきかないとなると、だれでも立ち止まってしまいます。にもかかわらず、人生には二者択一の場面に立たされることが、少なくありません。
昔から言われることは、「胸にじっと手を当てて、自分に聞いてみなさい」ということでありましょう。自分に聞いてみるということは、欲にくらんでいないか=貧(とん)=、腹立ちまぎれになっていないか=瞋(しん)=、自己の力を過信していないか=慢=と、自分に問うてみることであります。「困った時にゃ、お念仏に相談しなされや」と言った念仏者がありますが、よく味わいたい言葉ですね。
そして、それでもこの道しかないと思えたとき、おのずと決心はつくのではないでしょうか。それが、たとえ不本意な結果に終わったとしても、それはそれで愚痴らなくても済むのであります。自業自得なのですから。

法話629挿絵

法話628 トップ 法話630