法話537

人間の人生そのもの

福井市松本四丁目・千福寺副住職 高務哲量

愛別離苦

愛別離苦という言葉があります。私たちの人生の相(すがた)そのものをあらわした真理です。愛する者とも必ず別れねばならぬ苦しみは、この私自身の生命そのものにも当てはまります。間違いなく、いつかは自分の人生にも別れを告げねばならないのですから。
私の友人の僧りょが、招待されて結婚式に出席した時のスピーチが、この愛別離苦の話でした。そもそも結婚式のスピーチなるものは、うそでもいいから新郎新婦を褒め上げるのが一種の儀礼となっておりまして、使う言葉もおのずと限られております。同様に絶対に使ってはならない禁句もいくつかありますが、その代表が別れという言葉でしょう。
私の友人はスピーチのマイクが渡されるなり、この愛別離苦の話を始めました。今日縁あってめでたく結ばれた二人も必ずいつか別れねばならないでしょうと。外の参列者は今までの虚飾に満ちた耳に心地よいスピーチから一転して真実がまともに耳に飛び込んで来ましたから一様にびっくりしていましたが、スピーチが進むにつれてうなづき始めました。
必ず別れぬばならないからこそ、今日の縁を、出会いを大切にして生きて下さい。それはとりもなおさず、今日の門出を本当にめでたいものとすることに外ならないのですと結びましたが、一番好評のスピーチでした。
私たちは、いつまでもあると思うから伴りょを、親を、そして自分自身の人生をないがしろにしているのではないでしょうか。

法話537挿絵

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