法話225

くめど尽きぬ”心”(名僧の教え、盗人を貫く)

今立町定友・唯宝寺住職 藤下洸養

内にある宝

むかし、金津の名僧・香月院深励師が布教の旅に出ていられる途中、一人の若者と道づれになった。山の中の私の家にお泊まり下さいと、親切そうに誘うので、その家に泊まったが、実は彼の正体は盗人であった。夜中になると、彼は寝ていられる深励師のそばに近づいて、金めのものをまさぐった。
すぐに気付かれた深励師は「何者じゃ!」と大喝一声された。盗人は腰をぬかして、哀願した。
「何じゃおまえか。親切ごなしに私を泊めて、盗みを働こうとしたのか。今まで何度ほど盗んだか」
「数しれぬほど盗んでいます。盗み高が少ないので、何日ももちません。それでまた盗みます」
「それじゃコソ泥だな。そんなケチな盗みなどせず、もっと大きなものを盗め」
「へえー?、ではあなたさまも盗人で?」
「おお、そーじゃ。ただわしはおまえみたいなコソ泥とは違うぞ。わしが盗んだのはたった一回きり。それもいくら使ってもなくならぬ宝を盗んでいるわい」
「そのような宝はどこにありますので?」
「知らぬか、手近いところにあるぞ」
「知りません、教えて下さい」

法話225挿絵

深励師は、いきなり盗人をにらみつけると、その胸ぐらをひっつかんだ。そして、「ここにあるっ!自分の”心”に、くめどもつきぬ宝をもちながら、他人のふところをねらうとは、ばかなやつじゃ!」
この一言に、若い盗人はめざめた。ざんげした。そして深励師の弟子となったということです。

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