法話036

試練背負って行け (大きな障壁もいつか消滅)

演仙寺住職 多田文樹

人生に誕生する

何の支障もなく、一生順調に暮らせるのが、本当に幸せなのでしょうか。私はそうばかりは言えないと思います。

山本仏骨師の書かれた本の中に、次のような一節があります。あるご婦人が夫を亡くしました。それまで順調だった家庭に訪れた悲劇によって、そのご婦人は生きる希望を失いました。幸か不幸か子供もなかったので、そのご婦人は「死にたい」と本気で考えます。しかし、山本師に会い、次のように諭されるのです。

法話036挿絵

「あなたは今まで、ご主人という大きな傘の下にかばってもらって、世間の雨もあらしも受けずに暮らしてこられたのでしょう。そうした傘をさしてもらって、一生何も心配せずに過ごす人のことを、世間では幸福だと言うのかもしれません。しかし、私はそうは思いません。なぜなら、それではあなたが、本当に自分の人生を生きたということにはならないからです。自分に与えられた境涯の中で、一人立ちできてこそ、初めて人生に誕生できたと言えるのではないでしょうか」

それを聞いて、やっとそのご婦人は、生きる意味を見いだされたということであります。

思えば苦悩多き人生、それを乗り越えることは容易ではありません。しかし、与えられた試練を正面から受けとめ、どっこいしょと背負って立ち上がるとき、大きく見えた障壁もいつしか消え、おぼつかない歩み取りも、実は大きな力によって支えられていたと気がつくことでしょう。

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